だい28 なんだべなんだべ
 ぼくの(はは)はお料理(りょうり)きで、台所(だいどころ)()つのはいいけれど、
「なんだべ、なんだべ」といいながら、(ゆび)()ったり、だいこんおろしといっしょに、かわをすりむいたり、おこめをいれないで(みず)だけのごはんをたこうとしたり、ゆうべもなんかものすごく時間(じかん)をかけて
「おいものにっころがしよ」といって()されたのは、ちくわのにっころがしだった。
 (ちち)は「(かあ)さんの料理(りょうり)日本一(にほんいち)だ」といって、なんでもおいしそうにたべる。
「つくりがいがあるわ」
(はは)は、()(ほそ)めて、おかわりするのを()っている。
 (ちち)は、よせばいいのに、かならずおかわりするんだ。
「なんだべ、、なんだべ」と、ぼくは、ふたりをみて、あきれている。

 今日(きょう)もはりきって台所(だいどころ)()った(はは)が、こういった。
(かあ)さんは美人(びじん)じゃないわ。()まれてすぐ、美人(びじん)じゃないと(おも)って、がんばっているのよ」
 タマネギをきざみながら、(なみだ)をポロポロこぼしている(はは)をみると、「人間(にんげん)努力(どりょく)だけではだめなんだ。あるていどの才能(さいのう)必要(ひつよう)なんだ」と、いおうとしても、いえなくなってしまう。
(とう)さんは、本当(ほんとう)(かあ)さんの料理(りょうり)がおいしいと(おも)っているの」
 ある()(ちち)にきくと、しみじみとした口調(くちょう)で、こういった。
「まずいね。だけど、まずいのも、あれほどってっていしてまずいと、これでいいのだ、これが(かあ)さんの(こころ)なんだと、(おも)ってしまう。そういうことじゃないだろうか。家庭(かてい)幸福(こうふく)というのは」
 ぼくは、(はは)のまねをして、いってみる。
人生(じんせい)って、「なんだべ、なんだべ」


(昭和六十一年十月 岩手日報夕刊に掲載)