だい13 うみしあわせですか
 つきひかりが、うみをてらしています。
なみしろひかってみえるのは、いわにぶつかっているからでしょう。
 ウミネコのなくこえがします。
あそびすぎて、しまかえるのが、おそくなってしまったのでしょう。
 わたしも、いえかえるのがおそくなってしまいました。
しゅうバスにおくれてしまって、それからさきあるいてかえるしかないのです。
 まちからとおざかるにつれて、うみのにおいがしてきます。
わたしは、まれたときから海鳴うみなりをきいてそだちました。
           
 くやしくて、ねむれないよるもありました。
いつまでもうみをみつめていて、ひとみうみみたいにあおくなったようながするもありました。
 うみかぜも、ゆきあめっています。
 うみいかりも、やさしさもっています。
 わたしがっているくらいだから、うみはわたしのことを、なんでもっているでしょう。
わたしに、いままちのひととのあいだに、縁談えんだんがあることも。
 うみよ、わたしはとつぐべきでしょうか。
 ひとをあいせよというのでしょうか。
 をうみ、そだてろというのでしょうか。
 うみあいするようには、ひとをあいせない。
 そんながするのは、まちがいなのでしょうか。
あのひとは、つといってくださいました。わたしは、てないといってほしかったのです。
 長い髪に潮のかおりのしみついた、こんな女です、わたしは。
 うみよ、これからもさきも、ひとをあいせよと、あなたはいうのでしょうか。
こんなわたしでも、きていろと、おっしゃるのでしょうか。
 つきひかりにてらされて、もだえしているうみよ、
あなたはしあわせですか。
きていて、しあわせですか。

(昭和六十年七月 岩手日報夕刊に掲載)